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ウィーン 2011 その3 ”ウィーン郊外夕暮れ紀行~バーデンへ” [ヨーロッパの町紀行]

 私は街歩きが好きであるが、旅先で心掛けていることがいくつかある。そのうちのひとつが、観光地として整備された街中を離れ、一度は地元の普通の人々に混じって郊外電車に乗ることである。
 現代の都市というものが、郊外と呼ばれる後背地域の存在を抜きにして語ることができないのは言うまでもないだろう。中心市街地が劇場の舞台とすれば、郊外はその舞台袖であり、楽屋でもある。およそ整理整頓されていないそれを、あえて見ないで帰るほうが良いという人のほうが圧倒的に多いだろうが、私は少しはそれを覗いてみたいと思うのだ。

 ウィーンの場合、誠に格好の路線があった。オペラ座前から出ているWiener Localbahn、いわゆるバーデン線である。この路線は最終的にはウィーン南郊にある温泉保養地、バーデンまでおよそ60分かけて結ぶもので、観光路線的要素も持ってはいるが、それ以上に、ウィーン郊外に暮らす人々の日常の通勤通学、買い物の足なのである。
 車両は路面電車タイプで、実際にオペラ座前を出発して20分程度は、ウィーンのストリートを路面電車と一緒に走っている。しかし、その後市街地がいったん途切れた辺りで専用軌道に入り、終点のバーデンの中心広場に滑り込むまでの約40分間、右に左に、めまぐるしく移り変わるウィーンの郊外風景をつぶさに眺めることができる。

 なお、バーデン線でウィーンの市内パスが有効なのは途中のベーゼンドルフの手前まで。それ以遠、終点のバーデンまで行く場合は別途乗車前に切符を買う必要があるので要注意である。

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ウィーンの市内を路面電車として走るバーデン線の電車。


 専用軌道に入った電車は、まずうらぶれた町工場や倉庫街を縫って走った。淀んだ空気の中、労働者たちやむっつりしたおばさんが黙りこくって歩くさまが散見された。

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次に電車はベーゼンドルフという郊外住宅地(もとは独立した村落であっただろう)を抜けたが、この前後で、ロードサイド型のファーストフード店やアウトレットモールなどを無数に見ることが出来、あげくの果てに膨大な敷地面積を誇る郊外型ショッピングセンターが車窓左手に現れた。

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日本ほど無秩序に建っているという印象は受けなかったが、どこにでもあるようなのんべんだらりとした光景が続いた。

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一方、車内には学校帰りの高校生や買い物帰りの主婦たちが増え、夕方ラッシュ前の独特の、どこか懐かしいような、なごやかな雰囲気となった。

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 その後、いくつか集合住宅が立ち並ぶ小さな駅を過ぎ、家並みも途切れ、電車は次第に平原を走るようになった。しかしその広々とした光景は、絶えずあらわれるガソリンスタンドや鉄塔や廃棄物置き場などによってさえぎられ、決して美しいという印象を与えることはなかった。

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日本のスプロール化された郊外風景を、醜いといって嘆く人がいるが、事情はヨーロッパのど真ん中であるここウィーンでもさほど変わらないようだ。いつしか単線となった線路に沿って、それでも、暮れゆく光の中を電車は走り、ときどき、古くからある小さな町に入り込んでは、絵のような駅が私達を迎えてくれた。

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(しかし、この娘たちはかわいい・・)隠し撮り御免


 いよいよバーデンの町中へ入るとまた、道路の真ん中を走る併用軌道となる。ただし今度はウィーン市内と異なり、単線である。

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降り立った終着駅、バーデンの町。すぐに折り返すつもりで到着後すぐに切符を買ったものの、街並みの美しさに魅かれてしばらく街をぶらつくことに。良くも悪くも、さまざまな垢がたまりこんだウィーンとはまったく対照的な、清々しいたたずまいに、私はすぐに夢中になった。

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ウィーンの地ビールのひとつ、オッタクリンカーのネオンに魅かれて、とあるパブにふらりと入る。
ほろよい加減で入ったこの店のトイレへの通路には、時代がかったヌードが所狭しと並べられていた。
19世紀末~20世紀初頭ごろの、あの時代を生きた娼婦たちの群像だろうか。
どうも有名な作品群のようにも思うが、思い出せない。

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ちょっと過激?なので、モノトーンでお送りします。

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 最後に、バーデン線に乗る人のために。私はこのバーデンからウィーンに戻る電車の中で、いわゆる検札官につかまって電車を降ろされたことを告白する。
 この旅での唯一のトラブルにして、なかなか印象深い出来事でもあったので、以下に詳細に記載しておく。

 もちろん、切符は買った。上に書いたように、バーデンに到着してすぐに、ウィーン市内までの有効な切符を買ったのだ。それから約2時間、街をぶらついたが、ウィーンの路面電車の例にならい、乗車の際はきちんとドア横のパンチで穴をあけることも忘れなかった。しかし、この地元路線には別のルールが存在した。すなわち、切符はパンチを入れた時間に関係なく、購入後2時間で無効となること。それを私は知らなかった。

 もちろん、私は抗弁を試みた。「私は日本在住で、しがない旅行者で、そんなルールは知らなかったのだ。買ったあと、二時間バーデンの町をぶらついて、つい先ほど乗ったばかりだ」と主張したが、検札係の若い男女は黙って首を横に振る。
「買ってから二時間以上経っている。お前がこの切符を買ったのはウィーンだろう。それでパンチを入れずに往路を乗り、検札が来なかったことを幸いに、同じ切符を帰りにも使用している、そう考えることもできる」というのだ。なるほど~

 補足しておくと、バーデン線の切符は「何駅から何駅」とか「何駅から◎◎円」というような日本風の書き方をしていない。「ゾーン◎◎内有効 購入時間 ○:○○」と書かれているだけで、購入駅の表示がない。パンチを入れた際も、入れた場所は記録されず、時間のみが記録されるのだ。よって、彼らの推理が成り立つわけである。

 私はふと思い出し、ポケットを探った。あった。往路の切符だ。ウィーン市内のフリー券と、バーデン線で延長乗車するための券、あわせて二枚である。都合三枚となった切符類を証拠品とばかりに示し、彼らに微笑みかけたり、泣き落したりした。しかし、ゲルマンの血をひく彼らはニンマリともせず無線で当局への通報を続ける。
 さすがの私はしだいに狼狽し、「どうすれば良いのだ?」と聞くと「次の駅で上官が待っている。私達と一緒に降り、指示に従ってもらう」とのこと。彼らはいずれもまだ20代だと思われるが、うらやましいくらい論理的に思考し、規則に厳格であり、上官に忠実なのだ。

 ああ、私はどうなってしまうのだろう。ひょっとしたら罰金だけで切り抜けられるものなのかもしれないが、運悪く財布に残金はもうほとんどない。罰金を払わないなら、逮捕か? 強制送還? 永久にEU圏入国不可の烙印をパスポートに押されるのか? 最悪のケースが脳裏をかすめる。「日本人旅行者、無賃乗車で逮捕」・・・等というニュースの見出しが・・・・まさか・・そんな・・・私は有無をいわさず次の駅でしょっぴかれるように降ろされ、駅長室に連行された。

 そこには、黒眼鏡をかけた初老の駅長がいかめしい表情で待ち構えていた。機先を制してやれとばかりに「グリュース・ゴット!」と挨拶してやると、「グリュス・ゴット」と挨拶を返してくれたが、その声は短く低く、厳しさに満ちていた。私は駅長机の真前に立たされ、背後から若い検札官達が張り詰めた声で状況を報告する。駅長は私の差し出した例の三枚の切符を机の上に実に正確に同じ向き、同じ角度、そして等間隔に並べ、それと私の顔を交互に凝視しながら、彼らの報告を聞いていた。

 報告を聞き終えた駅長は、大きなため息をつき、腕組みをした。そのまま、再び何度も何度も三枚の切符と私の顔を注意深く見比べている。・・・

 長い長い時間が経過し、やがて、駅長は重々しくドイツ語で何らかを決定を通告した。
私の処分が決定したようだ。

 その判決を受けて、若い検札官たちは再び私に、「これから、私達の指示に従ってもらおう」と言った。・・・もう、どうにでもなれである。何も悪意はないのに、「二時間の掟」をただ知らなかっただけで、なぜこのような仕打ちを受けなければならないのだ。まるで悪夢のようだ。・・・・

 「ついて来るように」と言われ駅員室を再び出て、しょっぴかれるままに連行される。やがて、彼らの歩行が止まり、声が聞こえた。「ここに立て」と。同時に二人の検札官はすばやく背後に回り、私の逃げ道は完全にふさがれた。

 私はそこに立った。・・・・目の前に、切符の自動販売機があった。再び厳しい声が飛ぶ。「ウィーンまでの切符を買え」との指示。私は言われるままに硬貨を一つ二つ投入し、ボタンを押す。切符が販売機下部から出てきたところで「ウィーンに帰るように」と、最後の指示が飛び、二人のドイツ人は姿を消した。

 ・・・・・私は改めて手にした薄っぺらい紙片を手に、キツネにつままれた気分でいたことを、想像していただけるだろうか。しがない旅行者を相手に、たかだか数百円の為に、・・・・・
 しだいに笑いが込み上げ、私は完全に夜の帳に包まれたウィーン郊外の小さな駅で、「これがドイツなんや・・・」といつまでも感じ入っていた。

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私が降ろされた単線区間の小さな交換駅。たしか、駅名は。。。。駅長さん元気かな。



< 「ウィーン 2011」目次 >

・「ウィーン 2011」 本編 
    → http://club-carousel.blog.so-net.ne.jp/2011-03-21
・「ウィーン 2011 その2」 ”グリンツィングとヒーツィング”
    → http://club-carousel.blog.so-net.ne.jp/2012-11-23 
・「ウィーン 2011 その3」 ”ウィーン郊外夕暮れ紀行~バーデンへ”
    → (本ページ) 
・「ウィーン 2011 その4」 ”ウィーン車窓めぐり U6とウィーン郊外線 (おまけ:トラム好きの方へ)”
    → http://club-carousel.blog.so-net.ne.jp/2012-11-23-2



撮影 2011年2月9日~13日
本文 2011年6月


































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